強がる弱さ

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特別な目を持った人はたまにいる。
目の大きさに関わらず、瞳の中で光が四方八方に行き交い、どこまでも瞳が奥に続いている。
そんな目を持つ人。

工藤ニキちゃんは、そんな人でした。

彼女に着せると決まってから彼女のインスタグラムや事務所の写真を見ながら考えました。そして、いくつか簡単な質問をメールで投げかけました。
会ったことのない人に服を着せるのは凄く怖くて、人と服がなるべく離れ離れにならないように、情報が欲しかったんです。

その答えに、純粋で純朴だけど人に認められたいエネルギーを感じました。
あと、可愛いとか綺麗がハマる人じゃないなって思ったんです。

そのあとカメラマンの飯塚と夜道を歩きながらロケハンして、イメージを擦り合わせていきました。
別れたあと、飯塚から来たメールがこれです。




場末のバー。ひとり酔い潰れ昨夜の口説き文句も忘れてしまったわ
外に出れば渋谷の濁った空も微かに白み始めて、ふらつく足元には気取った真っ赤のピンヒール。
今の私には必要ないわと掃き溜めみたいなこの街に、吐き棄てるように放ったわ。
気づけば渋谷は午前5時
生まれたてのお天道さんが嫉ましくて、眩しくて、負けじとシガーに火を灯す。

わたし、女なんてやめてしまったわ

骨の髄まで疲れ切ったわたしは朝の陽射しから逃げるかのように駅前の喫茶店に入った
500円玉がくれる温もり、今のわたしにはこれで充分

真っ白なティーカップに滲んだプラム色のルージュがまだわたしが女であることを肯定する



2人で話したストーリーがこうも笑っちゃうくらいドラマチックに書かれると燃えました。
ほんと笑っちゃうんだけど。

女やめたなんてセリフは、本当に女やめれる人が言うセリフじゃないから、諦めの悪さというか、強がる弱さみたいなことが出来ればなと。


ポリサテンのくすんだピンクのキャミソールは、色っぽさと切なさを。
それを抑え込むように三つボタンの不細工なテーラードを羽織る。
ボトムは、スカートとパンツの中間のもの。かなり深く入ったスリットは彼女の隠れた女性の部分を垣間見せる。
足元はドリスヴァンノッテンのレザーサンダル。美しい紅い革と刺繍が素晴らしい。
最後にフィルターをかけるように、マントのようなコートを羽織る。

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ぼんやりした朝焼けの屋上から
舞台は新宿へ。

古くて広い喫茶店での撮影。
自分は他人のフリしながら新聞をパラパラ読み漁る。後から入店したカメラマンとモデル。

ここからはカメラマンとモデルだけの時間。
対面でバストアップ、かなり寄りでの撮影。
例えコートから靴まで用意したとしても、自分はそれを綺麗に見せたいなんて思ってなくて、その服を着ていい顔が引き出せて、いい写真が撮れればそれで役目としては充分。

見えるはずのない部位を見せたいが為の動作はあまりに虚しいから。

静かな店内に響き渡るシャッター音。
そのひと巻き、ひと巻きが2人の時間を刻んでいきました。


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生きてる
ただそれだけの動作で充分



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